「一太郎」アイコン訴訟、控訴審で松下側が逆転敗訴

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結局,真新しい話題は

控訴審は4月に発足した知財高裁で行われ、裁判官5人による「大合議」を初めて採用して審理を迅速化。控訴から約8カ月で判決が出た。


判決に至る論理の要旨は,Sankei Web から

控訴審では(1)一太郎にあるヘルプモードなどは、特許の「アイコン」に当たるか(2)一太郎などを製造、販売することは特許侵害に当たるか(3)松下側は特許権を行使できるか―が争点となった。

 篠原裁判長は(1)、(2)については松下側の主張を認めたが、(3)についてはジャスト社側が控訴審で新たに提出した英語の刊行物により、松下の特許出願前から機能説明表示のアイコンは周知の技術だったと認定。特許には進歩性がなく、特許無効審判で無効とされるべきもので、松下は特許権を行使できないと結論づけた。


決め手となったのは,特許法に平成16年に追加された,

第百四条の三  特許権又は専用実施権の侵害に係る訴訟において、当該特許が特許無効審判により無効にされるべきものと認められるときは、特許権者又は専用実施権者は、相手方に対しその権利を行使することができない。
2  前項の規定による攻撃又は防御の方法については、これが審理を不当に遅延させることを目的として提出されたものと認められるときは、裁判所は、申立てにより又は職権で、却下の決定をすることができる。

において,ジャストシステム側の第1項に関する主張が認められ,松下側の第2項に関する主張が認められなかったこと.


興味深いのは,

  • 特許権の間接侵害が認められた点.該当する特許は「物」や「手段」の発明に関する特許だから,「ソフトウェア」である一太郎,花子が特許権直接侵害することはない.しかし,一太郎,花子をインストールすることで特許に書かれた「物」が生産されるため,一太郎,花子が特許権を間接侵害するものと見なされた.

特許法第百一条二号

第百一条  次に掲げる行為は、当該特許権又は専用実施権を侵害するものとみなす。
(中略)
二  特許が物の発明についてされている場合において、その物の生産に用いる物(日本国内において広く一般に流通しているものを除く。)であつてその発明による課題の解決に不可欠なものにつき、その発明が特許発明であること及びその物がその発明の実施に用いられることを知りながら、業として、その生産、譲渡等若しくは輸入又は譲渡等の申出をする行為
(後略)

ここで,ジャストシステム側の有効な証拠資料の提出がないため,一太郎,花子のインストールは松下の特許に記載された「物」の生産に不可欠(winhlp32.exe 単体では実現できない)とされ,また,WindowsAPI は「日本国内において広く一般に流通しているもの」(典型的には,ねじ,釘,電球,トランジスター等のような,日本国内において広く普及している一般的な製品)とは認められなかった.

  • 外国において頒布された刊行物でも,発明の進歩性の欠如による特許無効の証拠となりうる点.松下の特許(平成元年10月31日出願)は『ヴィッキー・スピルマン=ユージン・ジェイ・ウォング著「HPニューウェーブ環境ヘルプ・ファシリティ」,1989年〔平成元年〕8月発行』から容易に想到しうるとして,進歩性が欠如しているため無効にされるべき特許であると認められた.(刊行物公知の世界主義というらしい)

特許法第二十九条第一項三号

第二十九条  産業上利用することができる発明をした者は、次に掲げる発明を除き、その発明について特許を受けることができる。
(中略)
三  特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となつた発明